Little AngelPretty devil 
       〜ルイヒル年の差パラレル・番外編

       “この時分といえば”
 



ひなたの一角に古い山茶花の木があって、
真ん中近くに蕾がいっぱいあったと報告してきたセナが、
今は満開状態のその傍らを通るたび、
妙ににこにこしているのが判りやすくて彼らしい。
陰陽師としていいのか悪いのか、
繊細が過ぎる性分の少年にすれば、
この寒い中、冷たい空気に負けず精一杯咲いているのが
健気な花が可憐にも頑張っているようで嬉しいのだろう。

 「…?」

ふと、まだ暗いうちから目が覚めて、
なんでだろうかと怪訝の感じたそのまま、細い眉をしかめた蛭魔。
真っ暗でもないらしく、鼻の先の冷えようから察して一番冷え込む刻限か。
最近とみに日の出が遅くなった、
まだ明け方だろう時間帯じゃないかと察しがついたものの、
そんな中途半端な時間に目が覚めた理由が判らない。
肩口が冷えたか、いやいや
綿入れの大きな着物を 敷いて掛けてしている寝間はずんと暖かで。
用を足したくなったのなら、こんな風に何でどうしてと考えたりしないし。
妙だなと思う思考の中、ちょっと低めの声が届く。

「…だから、もうネンネなんだ。お頭様、春まで待っててね?」
「ああ。寝相を悪くして おっか様と離れるなよ?」

幼い声がその輪郭ごと拾え、
それへ応じた聞きなれた男の声の優しい言いように、
ああそうかとやっと得心がいく。
この時期は、葉柱の仲間内が次々と冬の眠りにつくので、
律儀なクチがその前にと挨拶に訪れる。
蛭魔に気を遣ってか、それとも異能が低い、弱くて小さきものだからか、
夜陰に紛れてやって来るので、
こういう格好での対話となるようで。
女の声もかすかにしてのそれから、じゃあねとお別れとなったものか、
しんと静まり返って何合かの間合いを経てから。

「…いつまで空けてやがるかな。」
「おお、すまんすまん。」

あんまり冷たくなってたら、寝間に入れてやらんからなという言いようへ。
広間を横切り、几帳をくぐり、
それほど冷えてはないけどなと、
それでも夜気にすっかり冷たくなった外着をくるりと脱いで。
体温が馴染んだ小袖姿になって綿入れの間へ潜り込んでくるの、
さすがに蹴りだすほど非情ではない…というか、
他所に気持ちを奪われていたのだろう分、早く取り込みたくなった陰陽師様。
そっぽ向くぞというよな言いようとは裏腹、
早く戻って来い、寝相が決められないだろうがと、
自分から頼もしい懐へと潜り込む。

「冬ごもりか、もうそんな時期なんだな。」
「まあな。お前の方もそろそろ宮中に詰める日も増えるんじゃあ…。」

みなまで言わさず、やなこったいと聞こえないふりで
ちょっぴり堅い懐の、緩められた暖かいところ、
深みに頬寄せ、寝たふりを決め込む。
この冬も寒くなりそうで、でも、それが痩躯に堪えはしないのが嬉しくて。
とはいえ、そんな惰弱な笑みが隠せないのは癪な、
相変わらずややこしい神祇官補佐様だったようでございます。






 ◇ おまけ ◇


 「あ、あぎょんvv」
 「あぎょんvv」

山茶花のお花が散ったの、
竹の箒で履いて集めてたセナくんの周りでお手伝い中だった子ギツネ二人。
お庭へ直接という、いろんな意味から特別な現れようをした
不意な来客に可愛いはしゃぎ声を上げ。
逆に、

「…いちいち出てくんじゃねぇよ、むさいのが。」

わぁいわぁいとまとわりつく坊やを二人とも
濃い色の作務衣の懐近くへ担ぎ上げつつ、
どっから涌いたかという勢いで出て来たトカゲの惣領さんや、
セナくんの前で壁になった武神様に
おいおいおいと苦笑を見せるは、ある意味 余裕か。
どうかすると妖異のラスボス、もとえ、
強力な異能を持つ御大でもある存在ゆえに。
こちらの屋敷や家人らを守りし守護だという自覚も大ありの
葉柱や進にしてみれば、
まだまだ幼きこの顔触れと不用意に接させるのはどうかという警戒も沸くらしく。
そんな構えをされたのも、単なる顔見世とあしらったか、
ふんと不敵に笑ったそのまま、それよりもという本題を持ち出そうとしたところ、

「あぎょんもネンネしゅゆの?」
「しゅゆの?」

坊やたちに先に訊かれて、
おやまあと鋭い双眸をちょっぴり見張ったそのまま、

「寝てたらたたき起こしに来た奴が言うか、それ。」

苦笑を見せる蛇神様。
おややあ?と小首を傾げた辺り、すっかり忘れているくうちゃんらしいのへ
ま・いっかと今度は目許を和ませて、

「この冬もお籠りはしねぇ。
 なんで、時々顔見せに来るかもだ。」

そうと言って、いかつい男衆の守護二人に微妙なお顔をさせてから、
からから笑ってチビさん二人、高い高いとあやして見せる。

『わざわざ言いに来て下さったのは、
 この屋敷周縁の物の怪や妖かしに聞かせるつもりもあられたのでしょうね。』

夏には夏の、冬には冬の、
陰の気がもたらす病や地脈の歪みというのがあって。
それに勢いを得る性分の悪いのがこちらの家人らへ手を出さぬよう、
自分も見ているからなと宣言しに来たのではなかろかと。
感心する素直な書生くんなのへ、

『なんの。
 葉柱や進というからかい甲斐のある連中をあしらいに来たのだろ。』

自身は出仕していて不在。
面白そうな対峙だったようだのと
くつくつ笑ったお師匠様へ、
そおっかなぁと小首を傾げる瀬那くんも、
すっかり馴染んだ蛇神様。
もしかして…ある意味 彼も当家の守護の一人なのかもで。
北風に乗ってやって来る障りごとや瘴気に備え、
準備は万端なあばら家屋敷なようでございます。


  
     〜Fine〜  16.12.12


 *今現在の京都は遅めの錦景がクライマックスですが、
  平安の京都ではそろそろ雪の便りも聞かれるかもですね。

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